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某広告代理店でデータ関連のお仕事をしている人のメモ。

気象変動による需要の変化を予測してマーケティング企画に活かす

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データ人間あるある:データのお仕事をしているとすべての線がグラフに見えてくる(職業病)

 

わたしはとある広告代理店で「データ」に関わる様々なお仕事をしています。

具体的には、提案に必要なデータを探したり、アンケートの設計や集計を行ったりという昔ながらのお仕事ももちろんあるわけですが、最近ではどんな業種業態の企業であってもマーケティング活動においてROI(Return On Investment)や想定CV(コンバージョン)数などを最初からしっかりと定め、PDCAを厳密に行っていくというフローが必須となりつつあり、そちらに関わる業務が大半を占めています。

ROI等を最初から定めるためには、何かしらのマーケティングアクションを起こす前に想定されるReturn(ROIのR)がどのくらいなのかを把握しておく必要があります。これは単にクライアント企業が広告代理店に求めているだけでなく、営利目的の事業を行なっているすべての企業のマーケティング担当者が上から言われている、または経営者の方自らが意識しているものだと思います。

広告代理店に限って言うと、少し前までは、画期的なアイデアを提案してそれが面白そうである程度のImpressionが稼げるようなメディアも併用するようであればGoサインが出ていた、という時代もあったようなのですが、現在のような状況ではそれがどんなに画期的なアイデアであっても、数値的根拠がなければ全く意味がなく、突き返されてしまいます。

こういった状況のため、ありがたいことに私のようなポジションが重宝されるようになっているわけですが、重宝して下さっているのはまだ一部の意識の高い方のみであり、マーケティングプランの立案にあたり数値を予測しておくことの重要性が社内外含め十分浸透していない感もあります。そこで、社内の啓蒙用として予測分析の有効性の例を説明した資料をブログ向けに一部改変して公開してみます。

 

資料の前提

サンプルの舞台として取り上げたのは「京都のパン屋さん」です。なぜそうしたかというと、

  • パン屋さんは誰にとっても身近な存在であり分かりやすそう
  • 私がたまたまその時パンに関わるお仕事をやっていた
  • 日本では京都市がパンの消費量と消費金額が全国No.1である

という3点からです。参考までに、3つ目だけ参考情報を示しておきます。

 

図1 パンの消費量 都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング

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出典:総務省統計局 http://www.stat.go.jp/data/kakei/5.htm

家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(平成25年(2013年)~27年(2015年)平均)より作成

 

2位以下の前後の差を比較すると、ダントツ感が出ている事がお分かりいただけるでしょうか。

 

また、京都市内に限ってパンを「食パン」「他のパン」で区分して支出金額を見てみると、食パンが数ヶ月に渡ってほとんど大きな変動がないのに対し、「他のパン」は月や年により大きく変動しています。そのため、「他のパン」の支出金額は何かしらの要因により上下が発生していることが考えられます。

 

図2 京都におけるパン支出金額の推移(2013.8~2016.7、月別)

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(出典:総務省統計局 家計調査 http://www.stat.go.jp/data/kakei/5.htm より2013/8~2016/7の京都市のデータを抽出して作成)

 

この「他のパン」の支出金額の数字と、わかりやすさという視点からプラス「気象」のデータを使って、食パン以外のパンの支出金額(≒需要)の予測を行い、そこから提案の方向性をいくつか出すという例をつくってみました。

 

予測の考え方

このサンプルでは予測を行うにあたり、気象庁のサイトで公開されている気象データ*116年7ヶ月分と、総務省統計局のサイトで公開されている家計調査*23年分のデータを用いて、SPSS Modeler*3(詳細は後述。)上で結合させたデータをクラスタリングするという方法で進めました。通常、「需要予測」というと時系列データを用いて移動平均などを計算していきますが、今回は「時系列」や「季節」の観点を一旦排除し、あくまでも「気象」のデータのみで見るというアプローチで進めるため、シンプルにクラスター分析を中心に行っています。ここでどのような気象の時に最も需要(≒支出金額)が高くなるのかを把握することで、今後天候に応じた需要の変化に対応できるようになるというわけです。

 

分析結果

時間のない現代人の皆さんのためにいきなり結論を出してしまいますが、気象データと家計調査でデータを結合させて実行したクラスター分析の結果と、ここから考えられるマーケティングプランを以下に簡単にまとめます。

 

<パン消費金額が増える気候>

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上記に当てはまる月が、人々がもっともパンに魅力を感じ、金額に投じてくれるタイミングであることがわかりました。詳細データを見ると4月はほぼ必ずこのクラスターに含まれるため、少なくとも4月頃のプロモーションに関しては上記に基づく施策の提案ができそうです。

なお、クラスタリングを行うにあたっては上記の気温データ以外に日照時間、降水量、風速などのデータも投入していますが、クラスターに与える重要度は低く、これらの要素がパンの消費金額に何らか強い影響を持つとは言えなさそうでした。

 

ここで注意したいのが、金額に関するデータの出典が「家計調査」である、という点です。つまり、この時季は単純に“家計が豊かになる”というわけではなく、“「毎月変わらない、限られた家計」の中で特にパンに費用が割かれる”時季、ということであり、たとえば食卓を彩る他のものもリッチに、、、という提案はあまり受け入れられない可能性があります。この場合、下記のようにプロモーション案を提案していくことになるでしょう。

 

  • 高級化を図らずに売価を上げるための施策。具体的には;
    • スーパーなどで他の食材をあまり買わずともパンだけで食事が完結するよう、さまざまな食材が摂取できるような惣菜パンやサンドイッチを充実させる。
    • ひとつだけで大満足の朝ごはんやおやつタイムになるように、ボリューミーなパンを提供する。
  • 1個あたりの価格を上げるのではなく、いつもよりも頻度を上げるため、日替わりパンを提供し大々的に告知するなど「通う楽しみ」をつくる。
  • 一度に(個数として)たくさん買ってもらえるように、家族や仲間のみんなでパンを囲むような機会を提案する。

 

逆に、最もパンが売れない気象のときのプロモーション提案については、下記の分析結果とインサイトが導けました。

 

<パン消費金額が減る気候>

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消費金額が最も多いクラスターと少ないクラスターの「他のパン」平均購入金額を比較してみると、268円の差をつけています。

食パン以外のパンで268円というと、良心的な街のパン屋さんであればあんパン2つくらい、ちょっと高めのブーランジェリーであればリッチな惣菜パン1つ分くらいの差です。1世帯あたりの月額がこの価格差なので微々たる差と感じるかもしれないですが、たとえばそのパン屋さんがカバーする世帯が1000世帯あったとしたら月々268,000円の売上差となり、いち商店としてはなかなか侮れない差額です。平均単価が少しでも高くなる条件として、気象、もっと言えば気温は影響があると言えそうです。

 

パンが売れない時期の仮説と施策案は以下のように考えられます。

  • 気象が変わったせいでパン食を避けるようになる?
    • 6月は暑くなり始めたからこそ美味しく食べられるような、爽やか系のパン(たとえば柑橘系やヨーグルト系、冷やすものなど)を早々に訴求するプロモーションを提案する。また9月も芋や栗などほっこりとした秋らしい商品ばかりに行きすぎず、季節のフルーツなどを使った“爽やか系”の新商品を訴求したほうが良いかもしれない。
  • 気象が変わったせいでそもそもパン屋さんにいかなくなる?
    • プレゼントが当たるキャンペーンを打ち、パン以外の魅力をプラスする。
  • 夏のレジャーなど出費が嵩む時季のため、高価格帯のパンは避けられる?
    • 比較的安価なパンでもたくさん買ってもらえるように、セット売りや複数買いをしてもらえるようなきっかけづくりをしてフライヤーやPOPなどで訴求する
    • 一定金額以上のお買い上げでポイントやシールがたまる仕組みをつくる。

 

また、これは広告代理店が言及するべきところではないですが、暑さ所以ということであればさらに店頭のエアコンを少し涼しめに設定することで店舗内への誘い込みに成功するかもしれません。もちろん、焼きたてのパンがすぐに冷えない程度に。

 

 

おそらく、上記のインサイトと施策案だけの提示だけだと「うーん、これでホントにお客さん来るの?」という感じだと思います。が、前提として予測データを見せた上での提案であれば、担当者の危機感や納得感も変わってくるのではないでしょうか。さらに、先程算出したクラスターごとの平均金額を各店舗がカバーするエリア内の世帯数と掛け合わせると売上目標金額も算出できます。結果、販促にかけるべきコスト感も自ずと決まってきますので、どのようなメディアやツール、手法を使えばいいのかもおおよそ見当がついてきます。

ちなみに今回の分析は非常に手軽にできます。以下に具体的な分析方法をまとめましたので、ぜひ皆さんもオープンデータやお手持ちのデータを使って次の提案資料用の予測値を立ててみて下さい。きっと、上司やクライアントの反応が今までと違ってくると思います。

 

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データ系のお話をするブログはじめます

ここ数年はほとんどSNSで短文をすぱっとアウトプットするくらいで済ませることが多かったのですが、データ分析業界(?)が発展していくにつれインプットやアウトプットがあまりにも多くなりすぎて、あくまでも1人の人間として意見をまとめる場所がほしいなと思ったのでブログを立ててみました。

ここでは仕事をしている上で思ったことやメモしておきたいことなどをどんどん投稿していきたいと思います。